新現役!シニアわくわくブログ

シニアに役立つ情報や新現役ネットの活動について発信していきます。

#面白い本 「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」(加藤陽子著・朝日出版)

~ちょっとリベラルを意識したタイトル以外は、至極まっとうな素晴らしい日本現代史~

この本は、栄光学園の中高校生に、加藤陽子東大教授が出張講義した内容をまとめたノンフィクションです。序章(オリエンテーション)に続いて、日清・日露戦争、第一次世界大戦、満州事変と日中戦争、太平洋戦争をそれぞれ主題とした5日間にわたる講義の模様です。生徒たちも「歴史研究会」のメンバーなので、なかなかレベルの高いやり取りが繰り広げられます。加藤教授は「あとがき」で、この講義は「私が教えた五日間ではなく私が教えられた五日間に他ならない」と述べていますが、これは間違いなく大いなる謙遜というもので、教授の知識量と理論構築力は圧倒的で、生徒が発する鋭い質問や、ときには「けたぐり」のような突飛な発想に対しても決して話をそらさず、正面から受け止め、歴史的事実をもとに丁寧な説明に努めていきます。こうした圧倒的学力を持つ教師との授業を経験した中高生が、今後「歴史」「学問」少し大袈裟に云えば「人生」にどう向き合っていくのか、そのような興味さえ覚えた程でした。

f:id:tanabetan:20210926191232j:plain 

加藤先生の講義は、中高校生相手といっても決して手を抜いていません。数字やデータを用いた科学的解析や最新の研究成果も披瀝し、出典もきちんと明示します。何より魅力的なのが、豊富な歴史的エピソードの数々です。大東亜戦争前の御前会議で、軍部が「大坂冬の陣」や「桶狭間の戦い」を例にとり、天皇の説得に努めたそうですが、今の歴史教育は余りにも「暗記科目」に特化しすぎ、歴史の持つ「物語性」が軽視されすぎているのでは、と感じました。第一次世界大戦後のパリ和平会議の条りで、松岡洋右が牧野伸顕にあてた手紙が紹介されます。日本が中国に突きつけた二十一条を批判した内容です。松岡のイメージとは違いますよね。その後、国際連盟脱退時の首席全権となった彼の悲劇的な立場など、松岡洋右の知らなかった側面をこの本で学びました。

その他、なぜロシア革命後の指導者がトロツキーでなくスターリンになったのか、日本が国際連盟脱退に至った原因は、通常作戦であったはずの「熱河省侵攻作戦」にあったこと、汪兆銘や水野広徳の新たな側面等。目から鱗が落ちるようなエピソードが、しかも検証された事実として次々と語られていきます。「歴史に"if"は禁物」と云われていますが、もしこうなっていたら……、という限りない想像が広がっていきます。

f:id:tanabetan:20210926191314j:plain ←加藤先生と受講生(2008年)

加藤教授は、昨年の日本学術会議新会員候補の中で任命拒否された6名の中の一人です。日本学術会議会員が、学者のキャリアにどの様な影響を与えるのか、よくわかりません。しかし、このように優れた歴史家が否定されるような決定が何故なされたのか、全く理解できません。(T生)

NPO法人新現役ネット (shingeneki.com)