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#面白い本 「二十世紀」橋本治著(2/2)

~歴史の真実を論理的に学ぶ爽快感!~

二十世紀」上巻の1901年の記述は、大英帝国の君主ヴィクトリア女王の死から始まります。19世紀ヨーロッパの列強諸国=王様の社会に於いて、クィーン・ヴィクトリアは要(かなめ)の存在でした。第一次世界大戦の主役たち、ドイツ帝国皇帝ヴィルヘルム二世、イギリス国王ジョージ五世、ロシア皇帝ニコライ二世の妃アレクサンドラは、いずれもヴィクトリアの孫。ニコライとジョージは、デンマーク王室の血を引く従兄弟同士という血の濃さです。第一次世界大戦は「ヴィクトリア女王の孫同士の壮大な内輪喧嘩」とは、まさに言いえて妙だと思います。

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第一次大戦後、敗戦国ドイツに課せられた峻烈な賠償が、ドイツの民主主義を枯らせ、ファシズムを育む大きな要因となった、と言われていますが、この本の1921年の項を読むと、すべての事実関係が腑に落ちます。

第一次大戦末期、革命直後のソヴィエト・ロシアは交戦中のドイツに停戦を申し入れます。ドイツ帝国は、ロシアに賠償金と領土割譲を要求し、ロシアは致し方なくこれを飲みます。大戦終結後のヴェルサイユ条約に基づく敗戦国ドイツへの賠償金額は、1320億マルク(全て金貨で支払う) という莫大なもので、しかもロシアとの講和は無効とされたため、ロシアからの賠償金はドイツに支払われません。ドイツはハイパーインフレに陥り支払い不能。フランスはその見返りにルール地方を占領。イギリスはドイツからの賠償金をアメリカから購入した兵器等の支払いに充てる計画が頓挫。金持ち国アメリカは、ドイツの賠償額減額を提案し、同時にドイツに借款供与、戦時賠償の金の流れを戻そうとします。しかしその流れも1929年の大恐慌で再び崩壊、独伊のファシスト政権が誕生し、欲と恨みの連鎖が第二次世界大戦を引き起こしていく、という図式です。

この本は、世界史からこぼれ落ちがちな、しかし重要な事実をわかりやすく記述しており、イデオロギーという色眼鏡を外すとこれほど透明に事実が見通せるのか、という一種の爽快感さえ与えてくれます。年号と事実の箇条書きのような、無味乾燥な歴史教科書の副読本として、ぜひ中・高校生に読んでほしい一冊だと思いました。     (T生)

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