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#面白い本 「収容所から来た遺書」(辺見じゅん著・文藝春秋)

毎週土曜日の日経新聞朝刊には文芸コラムや新書紹介のページがあり、現在梯(かけはし)久美子氏が「この父ありて」というコラムを書いています。9月25日は辺見じゅん(1939-2011)を採り上げたコラムの第一回目でした。ノンフィクション作家であり歌人でもあった辺見は、角川書店創業者・角川源義の長女、春樹・歴彦の姉です。父源義が癌で急逝した折、築地本願寺で営まれた社葬(葬儀委員長・松本清張)に、直後に家を出た辺見の姿はなかった、ということです。久しぶりに辺見じゅんの名前を見、これまた久しぶりに彼女の代表作「収容所(ラーゲリ)から来た遺書」を手に取って再読し、感動を新たにしました。

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この本は、シベリアに抑留され戦後11年たった昭和31年、最後の引揚船で帰国した数名の日本人が、ラーゲリにあって帰国(ダモイ)を夢見ながら力尽きた山本幡男の家族に宛てた遺書を「暗記」して持ち帰り、山本家に届ける物語です。ラーゲリでは、私的に書かれたメモや日記の類はすべて没収され、懲罰を課されます。それ故に4500字に及ぶ遺書は、山本氏を慕う10名近くの人が手分けして暗記したものです。山本氏は、収容所内で句会を主宰し、ロシア語の語学力を生かして収容者とソ連側との仲立ちとなり、明るい人柄と包容力ですべての人に尊敬された人物でした。記憶、というかたちで日本に持ち帰られた山本氏の「著作」は、遺書だけでなく俳句や短歌、長編詩なども含まれます。このような日本人とその絆があったことを、私たちは忘れてはいけないと思います。

このノンフィクションに登場する男たちは、ほとんど大正生まれです。私たちの親の世代です。ちなみに私の父もシベリア抑留者で、この本にも登場する「エラブガ収容所」(文中ではエラブーガ)は、父から聞いたことがある名前です。この本が書かれたのは平成元年、もう30年以上前です。昭和という時代も、どんどんと隔たりつつあります。戦後シベリアに抑留された日本人は約60万人といわれています。国際法規に違反した拘留と強制労働、そして非人間的な処遇。厳寒の地に無念の命を落とされた数は約7万人、その多くが葬儀もなく墓もなく、凍土に眠っておられます。私たちは、これを単なる「恨み」ではなく厳然たる「事実」として、次の世代に引き継いでいく使命があります。そうでなくては、故なく命や人生を奪われた人々が浮かばれません。 (T生)

 

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