能の舞台には静かな緊張感がいつも漂っていますが、今回ご紹介する「翁」は、「能にして能にあらず」といわれており、別格の一曲です。演者は舞台上で神となり、天下泰平、五穀豊穣、国土安穏を祈祷する舞を舞います。
「翁」を勤める役者は、舞台に臨むまでの一定期間、別火精進の生活を送り、心と体を整えます。当日は、鏡の間と呼ばれる控えの間に祭壇が設けられ、面箱に神酒を供え儀式を行います。舞台には注連縄(しめなわ)が張られることもあります。
幕が上がると、面箱を先頭に、翁、千歳、三番三(三番叟)が順に舞台に入ります(金春、金剛、喜多の3流では、面箱と千歳が同役)。千歳(せんざい)が露払いの舞を舞い、その後、舞台上で翁面をつけ神となった翁が舞います。舞終わると翁は面を外して退出し、次に三番三(三番叟)が黒式尉(こくしきじょう)の面をつけ、鈴をもって舞います。
所千代までおはしませ
我らも千秋さむらはう
鶴と亀との齢にて
幸ひ心に任せたり
天下泰平 国土安穏
今日の御祈祷なり
千秋萬歳の 祝ひの舞なれば
一舞舞はう萬歳楽
萬歳楽 萬歳楽 萬歳楽
「翁」上演中は、観客も神事の参加者となり共に天下泰平を祈ります。
先日、国立能楽堂で開催された「能楽公演2020~新型コロナウイルス終息祈願~」(7/27~8/7 10公演)において、「翁」は、初日(観世流)と第6日(金春流)に行われました。私も心からの祈りを捧げました。
「今、困難に立ち向かう すべての人々に 天下泰平の 祈りを 捧げる」 書:石飛博光
【参考】
1976年(昭和51)発行
絵柄:翁面
第4次ローマ字入り通常切手
(事務局:ふな)