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「東アジア情勢と日本」(第24回新現役宣言フォーラムin関西)

2019年11月26日、大阪市中央区にある綿業会館ホールに満員の聴衆を集め、関西フォーラムが開催されました。


ゲストをお招きしてじっくりとお話を伺い、ホスト役との対談や聴衆との質疑応答を行うといった「新現役宣言フォーラム」のスタイルは、岡本行夫理事長が確立されたものです。24回目の関西フォーラムが、岡本理事長にとって最後のフォーラムとなってしまいました。この関西フォーラムの模様は、新現役ネットの会報誌「らいん」55号でご紹介していますが、紙幅の関係で割愛した部分や講演後の質疑応答などを加え、改めて掲載致します。

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岡本理事長と薮中さん

フォーラムの冒頭、ホスト役の岡本理事長は過去・現在そして未来からの社会的展望を、グローバルな視点から次のように語りました。国際情勢は大体30年単位で転換してきています。冷戦終結後、一挙に国境の壁が低くなり、人・モノ・カネ・技術・情報が自由に動き始め、グローバリゼーションが爆発的に進行しました。しかし、世界経済を相対的に底上げしたグローバリゼーションは、著しい格差社会や急激な移民・難民の移動を生み、世界各地でポピュリズムの台頭をもたらしました。次の30年は、独裁者または独裁者的手法を使う指導者の時代です。習近平国家主席やプーチン大統領、あるいはトランプ大統領の存在がそれを物語っています。そして、行きつく先は中国帝国の強大化です。地球環境問題も深刻です。温暖化の進行により、2050年夏季には北極の氷が全部溶けるといわれています。世界の平均気温が12度上昇すると地球上の氷すべてが溶け、海面は66メートル上昇し、世界の主要都市が軒並み水没するという予測さえあります。45億年の地球の歴史の中で、短い期間しか存在していない人類がこんなに早いスピードで地球環境を破壊して許されるものなのか、大変な焦燥感にかられます。環境の大切さは強調してもしすぎることはないと思います。

続いて本日のゲスト、薮中三十二さん(元外務事務次官)です。岡本理事長のかつての同僚であり、現在はともに立命館大学で教鞭を執っておられる薮中さんは、現在を「第二次世界大戦後75年続いた世界システムが大きく崩壊しつつある時期」と位置づけました。その象徴がトランプ大統領の出現と行動です。大戦後の世界システムとは、アメリカを中心とした国際協調と、それを支える自由貿易体制・ヨーロッパ(NATO)や日本(日米安保)を基軸とした同盟関係でした。ところがトランプ大統領は、このシステムを瓦解させ、アメリカ一国主義、反自由貿易をすすめ、同盟国との関係を軽視し始めました。香港の民主化運動への対応やアメリカとともにISと戦ったクルド族を見捨てる態度などを見て、同盟国は、かつて共有していた価値観(自由・民主主義・人権の尊重)を中国との取引(ディール)の下に置くトランプの手法に、不安を感じているのです。

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薮中三十二さん

さて本題の東アジア情勢についてですが、2018年6月に行われた米朝首脳会談は、米朝首脳が会談したという点で歴史的であり、かつ戦争が回避されたということも評価できます。しかし中身は極めて問題で、北朝鮮がICBM(大陸間弾道ミサイル)のテストをしない(No Test)、その見返りでアメリカが北朝鮮を攻撃しないとの約束がなされ、これでトランプは満足してしまった。非核化についての具体的約束は何もなかったのです。日本としては、日本海に飛来する短距離ミサイルの実験問題、朝鮮半島非核化への具体的道筋、そして唐突なトップ会談だけではなく、地に足がついた関係国協議の開催についてなど、アメリカに注文を付けなければならないでしょう。中国に対して、このところアメリカの強硬姿勢が目立ちます。中国からの全輸入額の半分近くにあたる2500憶ドルに25%の関税を課す、という措置は当分続くでしょう。中国からアメリカへの新規投資は事実上困難となり、米中貿易は縮小の方向です。ただトランプは大統領選挙を睨み、「中国に厳しく」しつつも、「株価の動向」によって手綱を調整するはずです。大切な日米関係ですが、トランプの「日米はアンフェアー」というコメントは、あまり気にかける必要はありません。日米安保条約が片務的であることは、双方の現実的な了解事項であり、在留米軍の経費を一挙5倍に引き上げる要求を突き付けられている韓国とは違い、日本は在留米軍の経費を最も多く負担しており、米軍のグローバル戦略上欠かせない「横須賀(海軍)」「嘉手納(空軍)」基地を提供しているなどの理由からです。むしろ実際に日本有事の事態となったとき、米軍が出動してくれるか、というのが大きな懸念材料です。日中、そして日韓問題について。中国の習近平政権は、対日関係改善の方向にかじを切っています。これは日本にとって絶好の機会で、平和的な要求をどんどん突き付けるべきです。例えば東シナ海の油ガス田問題。当初沖縄トラフまで張り出して領海の主張をしていた中国が、東シナ海の中間線上でのガス田の共同開発を提案してきました。東シナ海を折半して領有するという日本側の主張に沿うもので、これを機に条約化すべきです。現在の日韓関係の課題であるGSONIAや輸出管理などは、現実的に解決できる問題です。しかし「徴用工」問題で、日本は原理原則をいささかも緩めてはいけないと思います。
日本は、特にASEAN諸国から最も信頼の厚い国です。抑止力としての日米同盟を堅持しつつ、アジア諸国との共生を図る。日本政府には、日本の総合力を駆使して東アジアの平和を主導していく、という意気込みを求めたいし、そのような環境が整いつつあるように感じます。

2030年に向けて展望してみると、これからの10年は大変不安定な混沌とした10年になると思います。いままでは、先進自由主義国の集まりであるG7に象徴されるようなシステムが機能していました。ところがそうしたシステムが崩壊しつつあります。世界のリーダーを自任していたアメリカが、トランプ大統領になってからは、自らその立場を降りて自国中心の姿勢に転換しました。「リーダー不在」「各国の強権的指導者による力づくのエゴが表面化」そして軍拡。世界がより危険な方向に向かいつつあることは間違いないと思います。そのような環境下で、日本はどのようにすればいいのでしょうか。
先ずは仲間となる国、特に東南アジア諸国との連携を強めることですが、中国という存在があります。北朝鮮はある程度制御可能な存在ですが、中国はそうではありません。日本にとって、留意すべき中国の変動ファクターは次の2点。中国国内に混乱が発生した場合と、アメリカが一歩退いた状態で中国が文字通りスーパーパワーになった場合です。中国の存在を認めつつ身勝手な行動を許さない、そういったシステムの構築が必要です。例えば現在、日中韓やインド、ASEAN諸国など16か国が参加する自由貿易圏構想「RCEP(東アジア地域包括的経済連携)」という枠組みが模索されています。もっと単純に、東アジア地域の協力体制ができないだろうか。そしてその中では、中国にもきちんとルールを守らせる仕組みを作っていく。もちろんたやすいことではありません。しかし外交に携わる者は、相手を見ながら攻防を繰り返して、現実的で有効的な「日中協力体制」の構築を目指さなければなりません。

この後、会場との質疑応答が行われました。

Q1.相互主義という考え方があります。外国人に権利を認める場合に、その本国が自国民に同様の権利を認めていることを条件とする、という骨子ですが。例えば外国人が日本で土地を取得しようとする場合など、日本の個別政策に基づき法令などを定めることは、外交上問題はないのでしょうか?
A1.(薮中さん)
日本の個別事情で政策を定め、これに基づいて法制化することは、外交上何の問題もありません。今後のことを考えると、むしろその方向に推し進めるべきだと思います。
Q2.薮中さんは学生時代から英語に親しまれ、米国への留学もされていますが、外国人や海外の要人と非公式な会話をされる際、どういったことをこころがけていらっしゃいますか?
A2.(薮中さん)
私がコーネル大学の学部3年に入った当初は、周りで何が話されているのかわかりませんでした。学生時代のESSの経験など、全く役に立ちません。また、学部の講義では毎週膨大なテキストを読まなければならず、それを克服するのが大変でした。その経験はその後に役立ちました。外国人と話をする際、日本の歴史や文化がきちんと語れることは大切なことです。これは若い人たちにも絶えず云っています。そうしたことが、こちら側の土俵で交渉することにもつながると思います。またよく外務省や外務官僚は「格好はいいが弱腰で」などと揶揄されますが、とんでもない、外務官僚ほどの愛国者はいない、という気概は持っています。
Q3.環境問題についてお尋ねします。地球環境破壊の原因はCo2だけではないと思います。例えば、電力会社が使う大量の冷却水が海に排出されています。それが海水温上昇の一因と云われています。Co2以外の環境問題についてのご見解をお聞かせ下さい。
A3.(岡本理事長)
Co2は、ご承知のようにそれ自体が熱を発するものではなく「温室効果ガス」と呼ばれるように、地球上に厚いレイアー(layer=層)を作って、熱を封じ込めているわけです。もちろん発電所の問題もあると思います。現在の消費社会を支えるため、絶えず化石燃料を燃やし続けているわけですから。しかし、私が生まれて5年後の1950年、世界の人口は25億人でした。ちなみに人口が10億人に達したのは、有史以来営々と来て1830年のことです。それが100年後の1930年には20億人に達し、現在は77憶人です。このすさまじい人口増加と消費経済活動の拡大。これが続くと、地球は人類が発生させる熱で取り囲まれ、滅亡への道を辿るのではないか。私はそれを心配しています。 

※ 文責は新現役ネット「らいん」編集部