第54回新現役宣言フォーラム 小泉武夫氏を迎えて
54回を迎えた東京での新現役宣言フォーラムは、東京農業大学名誉教授の小泉武夫さんをお迎えして2019年12月23日、東京証券会館ホールで行われました。5か月近く前の講演ではありますが、コロナウィルスに対抗するための抵抗力や免疫力が必要なこの時期に、多くの示唆に富んだ内容だと思います。このフォーラムの概要は、すでに新現役ネット会報誌「らいん」55号に掲載しましたが、紙幅の関係で割愛した部分や会場聴衆との質疑応答も含め、改めて掲載します。
今回は加藤タキ副理事長がホスト役を務められ、104歳の長寿を全うされたお母さま(加藤シヅエ氏)のお話から、シニアが元気で健康に生きるためには「常に学び好奇心を持つ」「意欲を持つ」「それぞれに使命感を持つ」ことがその秘訣であると述べられた後、小泉先生をご紹介されました。以下、小泉先生のお話の要旨です。
1. 激変した日本人の食生活
国家予算の43%が医療費関連というのが日本の実情ですが、その原因は高齢化社会到来による経費増のほかに、生活習慣病の増加があり、これは日本人の食生活の変化にかかわるものだと思います。この50年間、日本人の油の摂取量は4.2倍、肉の摂取量は3.7倍となり、かつては低タンパク・低脂肪・低カロリーであった日本人の食生活が、全く逆のものになってしまいました。
沖縄県は、かつて琉球料理という「医食同源」に基づいた菜食がありましたが、米国の統治時代を経て缶詰(コンビーフ・ポークなど)の普及などから、今や肉の消費量は全国一位、野菜の購入額は全国最下位です。そして平均寿命で見ると、沖縄県は最も長寿県である長野県より3歳以上も短命という恐ろしい統計結果となっています。これは肉類の大量摂取が原因となって引き起こされる疾病とも関係しています。
2. 肉食と日本人の健康
肉の食べすぎは、大腸や直腸がんのリスクにつながる、と日本医師会がずいぶん前から警告しています。肉の食べすぎは大腸の疾病、大腸がん・直腸がんや潰瘍性大腸炎を増加させます。これは、肉食によって口腔内に入った悪性菌が、最終的には腸内に至り、酸化して発がん性物質を生み出すという過程をたどるからです。今や肉中心の食生活が、日本人の主要スタイルになっていますが、もともと日本人の肉食の歴史は浅いのです。お隣の韓国では、1000年前に豚肉にコチジャンをつけ、サンチェ(野菜)を巻いて食べるという文化があり、800年前にはキムチ(発酵食品)が焼肉の付け合わせとなっています。肉は大切なスタミナ源でもあるので、食べること自体に問題はありません。要はその食べ方にあります。
3. 繊維質野菜の効用
肉は野菜と一緒に食べることが大切です。野菜の繊維質は消化されず、便となって排出されます。
その際、植物繊維(プラス荷電)は腸内にある悪性菌(マイナス荷電)にくっつき、一緒に体内に出せてくれます。ちなみに、腸内で必要なビフィズス菌はプラス荷電の性質を帯びているので、そのまま腸内に留まってくれます。
遺伝子には、大きく分けて「民族」を継承するものと「家族」を継承するものがありますが、日本民族は2000年もの食生活を経て、アングロサクソンやゲルマン民族と比べて長い腸をもつDNAを持っています。これは、植物から栄養を摂取するのに便利で、古来より肉や乳製品から主栄養を得ているアングロサクソンなどには、あまり必要のないDNAです。
4. 日本人と和食
日本人は古来より7種類の主菜を中心とした食生活を送ってきました。「根菜類」「野菜類」「青果類」「豆類」「海藻類」「穀物類」、そして山菜やキノコなどを乾燥させ保存食としたものの7種類です。これに副菜として魚や肉・卵などがつきます。日本人は長い間、世界に類を見ないベジタリアン民族だったのです。この和食は、工夫と組合わせによって驚くべきスタミナ食も生み出してきました。江戸期の中山道の宿場料理のレシピには、みそ汁に豆腐を入れ、ひきわり納豆を加え、油揚げの千切りを山盛りにした料理があり、東海道に比べて格段に過酷な中山道経由で京に上る旅人にふるまったそうです。この料理を計測してみると、肉食に十分匹敵するエネルギー量を持ち、しかも低コレストロールであるということがわかります。
また菜食中心の和食は、ミネラルが豊富です。頻発する各種の暴力事件、衝動やキレることから短絡的に暴力に走る「怒りやすい日本人」の原因の一つは、ミネラルの不足にあります。この50年間で、日本人のミネラル摂取量は17%減少しています。
5. 発酵食品の効用
和食の基本は、ご飯と一汁(みそ汁)一菜(香の物)です。この一汁一菜は、いずれも発酵食品です。発酵食品は人間の免疫力を高めます。かつて爆心地から1.7キロ地点で原爆に被ばくした長崎市の医師夫妻は、死を覚悟して自分たちの食事記録をつけました。大量に仕込んだ手前味噌と塩ワカメの味噌汁を日々食していたこの夫妻は、夫が87歳の天寿を全うし、妻は90歳を超えてなお健在です。また、ソ連(現ロシア)のチェルノブイリで起きた原発事故の被爆者に、ヨーグルトを中心とした食事療法を行ったところ顕著な効果が得られたなど、発酵食品の効用については多くの事例が報告されています。そして免疫は大腸で作られます。現代医学のメインテーマは、大腸にかかわるものなのです。免疫力を高めるために私たちができることは、①発酵食品を食べる②体内に菌体を入れる(「ビオフェルミン」や「エビオス」などの服用)③植物繊維のあるものを多く摂ることです。日本人のDNAは和食で築かれてきました。和食をもう一度見直してみましょう。
小泉さんと加藤タキ副理事長
講演終了後、会場との質疑応答がありました。
Q1.学校ごとの給食の食材やメニューに差がありすぎるのでは?また食事を食べるマナーを教えずに、時間ばかりに追われすぎていないでしょうか?
A1.学校給食で一番大切な「食事とは何か」という、食育に関する部分が置き去りにされていると思います。和気藹々ととる開放感のある食事を、学校教育ではもっと大切にしなければいけないと思います。高知県のある小学校では、教室ごとに炊飯器を設置し、炊き立てのごはんとそれにあうおかずで、ゆっくりと昼食を楽しんでいます。また「いただきます」というドキュメンタリー映画(小泉先生も出演しています)の舞台になった福岡県の保育園では、園児が作った味噌などの発酵食品での食事を続けた結果、重度のアトピーを患っていた園児が全快しました。いま一度「食育基本法」の精神をじっくりと見直す必要があると思います。
Q2.仕事の傍ら自然農法をやっていますが、野菜の栄養分やミネラル量が、昔の野菜に比べて劣っているのでは、と感じます。
A2.その通りです。昔の野菜は、トマトでもウリでも水桶に入れると沈みました。今の野菜はみな浮きます。現代の農業は土づくりであるという、最も大切なことを置き去りにしてきたと痛感します。「はじめに土ありき」で、農業の基本は土壌つくりです。植物の三大栄養素だからといってチッソ・リン・カリウムばかりを与え、他のミネラル分をおざなりにしてきた。そのほかに50種類近くのミネラル分が野菜には必要なのです。「農学栄えて農業滅ぶ」ではいけません。私が関わっている福島県西会津町のミネラル野菜作りなどを参考にされ、交流したらいいと思います。
Q3.お酒のよい飲み方を伝授してください。
A3.お酒はもちろん飲みすぎてはいけません。お酒を上手に飲むことは、健康の維持にも大変大切なことです。お酒ばかり飲むのではなく、酒の肴などと一緒に飲みましょう。いつもピーナツばかりでは味気ないので、酒に合う豊富で多彩な肴とともに楽しみましょう。自らの酒量を知り、肝臓を保護するためにもたんぱく質を多くとりましょう。豆腐など最適です。
お酒は楽しく飲むことが一番ですね。
※ 文責は新現役ネット「らいん」編集部