日頃新聞を眺めていて、「これはいい記事だなあ」とその部分を切り抜き、そのままどっかにやってしまう。多くの皆さまに覚えがあることだと思います。私も先日、とあるところから出てきた切り抜きを再見して、それを元にこのブログを書いています。
それは今年の5月31日付日経新聞のコラム「大機小機」、題名は「複線型ワークの時代」です。江戸時代、津軽藩のすぐれたご典医だった澁江抽斎は、中国古典の考証学者としても秀でた存在でした。その埋もれた業績を掘り起こした森鴎外は、名作「澁江抽斎」を世に残しました。その森鴎外自身、陸軍軍医総監まで昇りつめ多忙な官僚生活を送りつつ、メールもパソコンもない時代によくこれほど、と感嘆するほど多彩で旺盛な芸術活動を、生涯にわたって繰り広げたことはご存じのとおりです。また森鴎外を深く敬愛し、数多くの鴎外伝・鴎外論を書き残した吉野俊彦は、日銀理事を務め、日本のトップエコノミストとして活躍した人でした。澁江抽斎・森鴎外・吉野俊彦と、何か時代をまたがった三題噺のようになりましたが、一芸を極める、生涯これ一筋、といった「潔い」人生観の横に、「デュアル・キャリア」という魅力的な選択肢が潜んでいることを、この三人の人生が示唆しているように思います。(TH生) -この項、続く-
森鴎外「澁江抽斎」岩波文庫版