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#面白い本 「藤原仲麻呂」(仁藤敦史著・中公新書)

NPO法人・新現役ネット(東京・田町)で、毎月第2・第4金曜日に行われている人気講座「続日本紀を読んでみよう」(講師:玉川千里さん)は、現在『巻第二十六』を読み進めているところです。夏休み前に読んでいたその前巻『巻第二十五』は、天平宝宇8年(764)正月から12月まで一年間、藤原仲麻呂(恵美押勝)のクーデター計画とその頓挫を扱っていました。『日本書紀』『続日本紀』を読む講座の様子は、YouTube にアップされているので、ご覧ください。 

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さて奈良時代、権力を思うがままにし、皇室に逆らって武装蜂起を試み敗死した大悪人として扱われることが多い藤原仲麻呂(惠美押勝)について、新しい本が出ました。

「あとがき」によると本書の特色は、藤原仲麻呂について今まで何かと強調されていた「皇位継承に伴う権力闘争」や「陰謀史観」という見方を極力排し、政治史の視点から、当時の政治や制度と仲麻呂の学問・思想がどのように結びついているかを、解明しようとした、ということです。

武家政権が確立する以前の天皇は、文字通り権力(権威)の頂点に位置していました。強い天皇は、ときには武力を用いて自らの政策を遂行し、弱い天皇は側近の傀儡となったり権力の座から追い落とされたりしていました。ちょうど今、自民党総裁選挙が行われていますが、各候補・各派閥・各党員それぞれの思惑、離合集散のさまが、この本の記述と重なって見えることが、しばしばありました。また当時、幾たびも流行した天然痘などの疫病が、政権の帰趨に影響を及ぼしたという記述も、私たちが直面している状況と引き比べてみる誘惑にかられました。

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藤原仲麻呂は、大変な知識人にして優れた行政官でした。仲麻呂の乱の後、『続日本紀』における仲麻呂絶頂期の記述が不採用(紛失)になり、大規模な業績の抹殺が施されたにもかかわらず、彼が発案し施行した行政の仕組みや法律の多くが、江戸時代に至るまでアレンジされながら機能してきました。それほどの構想力と実行力を持った仲麻呂が、権力を一手に掌握し、自らとその一族を準皇族と位置づけ、やがて孝謙上皇との対立を激化させていきます。そして、嘗て自らがその根を断ち、粛清してきた反乱を企て滅亡していきます。まるでシェークスピア劇のような歴史叙事詩であり、1200年以上前の出来事が、リアルに胸に迫ってくるようでした。(T生)