先月のことになりますが、静岡県伊豆の国市にある世界遺産「韮山反射炉」の特設舞台で行われた薪狂言(野外での狂言)を観に行きました。
人間国宝の野村万作さんと、ご子息で多方面にご活躍中の萬斎さん、お二人の共演を野外舞台という特別な雰囲気のなかで拝観できると思うと心ウキウキ。
この日のための専用列車に乗車することも楽しみのひとつでした。JR東京駅から発車の列車は、ホームでのアナウンスも「9番線からの列車は~、団体専用列車~ 野村万作・萬斎 薪狂言鑑賞号です~ 一般の方はご乗車できません~ 」このように流れていて、ちょっと修学旅行気分です。
車内では、狂言についてのレクチャーや、クリアファイルなどのグッズが配られ、目的地の三島駅に到着すると「ようこそ!伊豆へ」と書かれた横断幕の出迎えを受けました。


薪狂言は夜の時間だったので、昼間は「三保の松原」と、能「三井寺(みいでら)」に縁の「清見寺(せいけんじ)」へ。 清見寺の梵鐘は、能「三井寺」のなかで、行き別れになった我が子を探す母と子の再会を導く音としてでてきます。また、かつて、日本平と三保の松原を一望できる絶景を有した清見寺は、万葉集の時代から多くの歌人によって詠まれている場所でした。
廬原(いほはら)の 清見の崎の 三保の浦の 寛(ゆた)けき見つつ もの思ひもなし 万葉集 巻3-296
龍臥して 法の教えを聞くほどに 梅花開く身と なりにけり 与謝野晶子
舞台は、韮山反射炉と美しい茶畑の両方を見渡せる場所に設営されていました。開演前には、華道家による生け花パフォーマンスがあり、大きな2つの花瓶に花材が生けこまれ、みるみる見事な作品が出来上がっていきました。
そしてお待ちかねの狂言、この日の演目は、「蚊相撲」と「二人袴」でした。
「蚊相撲」は、大名が太郎冠者に命じて新たに召し抱えた者と相撲を取るのですが、その新参は実は蚊の精。そうと分かって団扇であおいで懲らしめようとしますが相撲に負けてしまい、大名も蚊の精になってしまうというお話。
「二人袴」は、舅のもとへ挨拶へ行く婿と父親が、一枚しかない袴を交代で穿きあいますが、二人一緒においでくださいと言われ、困ったすえに袴を割いて前面だけ付けて、それが最後に見つかってしまうというお話でした。
風薫る爽やかな季節にこのような舞台を鑑賞できる幸せを感じつつ、おかしみ溢れるストーリーを楽しみました。
伊豆長岡の温泉でリラックスした翌日は、あらためて昼間の韮山反射炉を見学し、そのあと「願成就院」へ。「願成就院」では、運慶が30代の若さで製作にあたったという国宝5体の仏像や、源頼朝と北条政子が待ち合わせにしていた「梛(なぎ)」の木、尼将軍と呼ばれた政子がモデルになったお地蔵様など、見どころが多かったです。
頼朝が幽閉されていたと言われる「蛭が小島」の場所を車窓から眺めながら、東京への帰路につきました。
(事務局:ふな)