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能「鉢木(はちのき)」

乾燥した日が続いていましたが、今日は東京も雪の予報ですね。

能の演目で雪がでてくるものと言えば、「鉢木」がまず思い浮かびます。

「いざ鎌倉」という言葉の由来となったこの物語は、鎌倉幕府第5代執権として1246年 - 1256年の10年間在職した北条時頼(ほうじょうときより)が、職を退いた晩年に、諸国を旅しながら民情視察を行った「廻国伝説」をもとに作られたと言われています。

雪の降り敷く夕暮れ、信濃国から鎌倉へ戻る途中の下野国佐野(現在の栃木県佐野市)のあたり、旅の僧侶が一夜の宿を求めます。住人の武士は、貧しさゆえ接待もできぬと一旦は断りますが、雪のなか行かせるのも申し訳なく、粟飯でもてなします。そして、囲炉裏の薪がなくなると、大切にしている、梅・桜・松の三鉢の盆栽を、僧侶のために火にくべるのです。

感じいった僧侶が名前を尋ねると、自分は佐野源左衛門尉常世(さのげんざえもんのじょう とこよ)といい、以前は三十余郷の所領を持つ身分だったが、一族の横領で奪われてしまった。だが、落ちぶれても武士の意地は忘れていない、いざ鎌倉というときには、一番駆けし命がけで戦う、と思いを熱く語るのです。

「あれ鎌倉に御大事あらば ちぎれたりともこの具足 取って投げかけ 錆びたりとも長刀を持ち 痩せたりともあの馬に乗り 一番に馳せ参じ 着到に附き さて合戦始まらば 敵大勢ありとても 一番に破って入り 思う敵と寄合い 討合いて死なんこの身の このままならば いたずらに 飢に疲れて死なん命 なんぼう無念の事ぞうぞ」

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春になったある日、諸国の大名小名に鎌倉参集を命ずるお触れがでます。常世(とこよ)も破れ鎧に身をかため、痩せ馬に乗って駆けつけます。鎌倉につくと、北条時頼の御前に呼び出され、平伏した常世に時頼は、「あの雪の夜の旅僧は、自分である。言葉に偽りなく、馳せ参じてきたことをうれしく思う」と語りかけ、失った領地を返した上、梅・桜・松の鉢木に因む三箇所の領地(加賀国 梅田庄、越中国 桜井庄、上野国 松井田庄)を恩賞として与えるのでした。

鎌倉武士の心意気と、御家人たちの「御恩」と「奉公」の精神性を感じることのできる作品です。

 

事務局:ふな