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キネマスキーの<たかが映画 されど映画>(その5) ― 「男はつらいよ」再考―

山田洋二監督と渥美清の名コンビによる映画シリーズ「男はつらいよ」は、高度成長期の昭和44年からバブル景気破綻後の平成7年にかけて公開された。
26年間に48作というギネスブックにも登録された世界最長のシリーズ映画であり、延べ8千万人の観客を動員した日本映画史の国民的遺産といえよう。

最後まで成就することのなかった寅さんの恋行脚を軸に、美しい日本各地の風景と人情、寅さんを取り巻く葛飾柴又の人々の人間模様など、日本人のメンタリティに快く響く山田監督の映画作りの巧みさと、寅さん以外にイメージし難い渥美清の役作りにはただただ感服。
加えて、寅さんの家族はもとより、御前様、タコ社長などといった傍系人物も含めたキャラクター作りもなんとも秀逸である。

ただ、寅さん映画を観るたびにどこか心落ち着かぬ気配を覚えていたのをいまだに思い出す。現実としてもし私の家族や周辺に日常的に寅さんのような人がいたとしたら、果たしてあのように能天気に笑っていられたか。
スクリーンという虚構と距離を置いて向き合うことの安心感の裏側に、一億総中産階級化という昭和の時代幻想が生み出した無意識の偽善がなかったであろうか。
こんなことを言うと、寅さんから「それを言っちゃおしまいよ。」とお叱りを受けそうだが。

*キネマスキー
 年齢・国籍不詳。「単館荒らしのキネマスキーを自称し、余り世上に上らぬマイナーでオタクな映画世界の徘徊者。6年ほど前から、NPO法人「新現役ネット」の映画講座を主宰。
*映画サロン「シネマの迷宮 この映画知ってる?」
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